「はじめまして」も「久しぶり!」も受け入れるムラ、NU VILLAGEへ

2018年のムラもいよいよスタート! ムラにもトークで登場予定の世界一周夫婦の妻であり、編集者&ライターの松岡絵里さんが、「NU VILLAGEのすすめ」を寄稿。NU VILLAGEはおなじみの人も、まだ参加を迷っている人も、かつて遊んでいたけれどしばしご無沙汰の人も……ぜひご一読を!

1976年に生まれて……

1976年は、私と夫の生まれ年だが、一般的には不遇の世代と思われているらしい。就職超氷河期を経験し、ロストジェネレーションなる不名誉な呼称まで付けられている。

そんな1976年生まれの当事者である私だが、実のところ不遇だとか、この時代に生まれて損したなぁとか、そんなことは一度も思ったことがない。むしろ、勝手にロストジェネレーションなんて言い出した奴は誰だ! 出てこい! と言いたいほど、私は1976年に、そしてこの日本に生れて良かったと思っている。

そう思っている理由はたくさんあるけれど、ひとつは多感な時期に、「今週末はどうしよう?」とあれこれ頭を悩ませられるほど、刺激的な遊び場が沢山あったことだ。

20歳の時に初めて参加したオールナイトの野外フェス「レインボー2000」には、「何コレ! こんな楽しいことがあっていいの!?」と頭を殴られるような衝撃を受けた。いまはなき新宿リキッドルームでの「CLUB VENUS」にも心酔した。夜22時を過ぎると眠くなる今では信じられないが、当時は朝5時からの青山MANIAC LOVEでのアフターパーティーまでハシゴすることもあった。そのうちにトランスの野外パーティーに顔を出すようになり、一方でPHISHの長い長い物語のようなジャムにやられ、ジャム・バンドを追いかけ始めた。

どこにもないものがあった、OVA

そんな私の遊び場での思い出に、OVAは独特の光を持って輝いている。NU VILLAGEのオーガナイザーである奈良龍馬くんがかつてやっていたパーティだ。

OVAは「○○系」と形容しにくい、独特の雰囲気のパーティだった。ライブがあればDJもある、テクノでもなければトランスでもない……強いていえばハウスなのだろうけど、それですら超越した、ワンアンドオンリーのパーティだった。そしてそこに登場するDJやアーティストはひたすらセンスが良く、当時の私が気になる人ばかりだった。

私にとってOVAは、「東京っぽい」パーティという位置付け。日本人のアーティストをメインに、青山CAYやBLUE(懐かしい!)といった、いかにも東京っぽい箱で開催されていたのもあるだろう。ただしロケーションだけが理由ではない。実際、箱を飛び出して長野県の和田峠で行われたOVAも、どこか東京的だった。そしてそれは、ものすごくカッコいいパーティだった。

今となって思うのは、OVAは東京が持つコスモポリタンな雰囲気、多様性に満ちた空気感を体現していたのではないかということ。トランスのパーティではトランス的なファッションに身を包まないと浮いてしまう気配があったが、OVAはジャージでもチェックのシャツでもOKな、さまざまな人たちが暮らす東京らしい空気感が漂っていた。おしゃれなハウス好きはもちろん、テクノキッズもB-BOYもOVAにいても違和感がない、そんな場だったように思う。

なんて偉そうに書いているが、当時の私は、ひとりの客として、ただひたすら楽しく踊って、感動していただけだ。和田峠の抜けのいいロケーションのなか、朝日がじわじわと登っていくのを堪能しながら、ああ私、1976年に生まれて、この場にいられて良かったなぁとしみじみと感じ入ったのだった。

進化したムラ、NU VILLAGE

本題のNU VILLAGEにたどり着く前に、回りくどく書いてしまったが……要はNU VILLAGEに足を運ぶきっかけがOVAだったのだ。東京的でひたすらカッコいいパーティだったOVAが、2014年に大人と子供のためのキャンプとして帰ってくる! 初めてNU VILLAGEが開催されるときに足を運んだのは、そんな期待感からだった。そして私のような、いわば「OVAチルドレン」も、きっといたはずだ。そして初めて開催されたNU VILLAGEで、その期待感は良い意味で裏切られた。

音楽好きが集い、音楽が主体だったOVAに対し、NU VILLAGEは世代を超えた面々が集い、たくさんの体験が詰まっていた。各所にステージが設けられていて、音楽はもちろん、さまざまなワークショップなどが行われている。

そうしたワークショップなどに参加するのも楽しいし、ただ踊ったり話したり食べたり、マイペースにその場を楽しむ大人たち、歓声をあげてはしゃぐ子供たち――それぞれがそれぞれのスタイルで、それぞれしたいことをしているのが新鮮だった。OVAが多様な人が行き交う「東京」だとするなら、NU VILLAGEは確かに「ムラ」だった。それも各人の顔が見える、進化したムラだった。

個人的に衝撃的だったのは影絵だ。それまで野外パーティ=音楽が主体という頭でいたので、フライヤーに影絵と書かれていても、はて何のことやら? という感じだった。それが当日、ガムランの音に誘われるように森の坂道を下っていくと……。光と影と音がこんなにも豊かな物語を紡ぎ出せるのかと感心し、そしてウットリと見入った。

忘れられないのが、それを見る子供たちの目がキラキラしていたこと。大人ですら見入ってしまう幻想的な空間は、多感な子供の心にさぞかしインパクトを与えたに違いない。そのときは私たち夫婦だけでの参加だったが、もし子供がいたら、このNU VILLAGEにはぜひ連れてきてあげたいと、強く思った。

我が子のキャンプデビュー

そんな思いが実を結んだのか、2015年、39歳にして私は子供を生んだ。そしてわが子のキャンプデビューには、2016年のNU VILLAGEを選んだ。まだ1歳にも満たず、歩けもしない子を連れてのキャンプはどうなのかと不安が一瞬頭をよぎったが、NU VILLAGEなら大丈夫だろうという思いがあった。

その年のNU VILLAGEは、金曜日から3日間の開催だったが、土曜日からしか参加できなかった。しかも到着して早々、夕刻からはまさかの土砂降り。それまでも雨の野外パーティは経験があるが、我が子のデビュー戦が雨とは……! 「この子は雨女かもね~」、夫とそんな話をしながら、メンバーが増えて手狭になったテントで過ごした。雨音共に遠くから聞こえてくる音に耳を傾けながら、「雨も悪くないよね」とテントでささやき合った。

翌朝は雨も止み、外に出て見ると子供がわんさかいた。ワークショップでは子供たちが頼りない手つきで野菜を切っていた。それを大人たちが、ヒヤヒヤしながらも温かく見守っている。そしてやっぱり子供たちの目はキラキラしていて、なんだか見ているだけで泣きそうだった。歳をとると涙もろくなるっていうけど、ホントだねえと隣にいる夫につぶやいたら……すでに彼はウルウルしていた。

我が子を抱っこしながらDJを前に踊っていると、いや踊らされていると、同じように子供を抱っこして踊っている人がいた。そして子供たちも踊っていた。「おはようございます!」と初めて会う子に声をかけられ、「おはようございます!」と返事する。そこは「ムラ」でありながら、かつてのOVAのような、多様なものを受け入れるような空気感が漂っていた。

大人も楽なNU VILLAGE

NU VILLAGEには音楽はもちろん、様々な体験ができるワークショップや、ここにしかないモノ、ここだけの味、そしてここでしか会えない人たちとの出会いが待っている。初めて触れるそうした経験に子供は目を見張るだろう。

しかもNU VILLAGEは、大人も楽しく、そして楽なのだ。娘は、まもなく「悪魔の」と形容される3歳を迎えようとしているが、保育園に迎えに行くと、靴を履きたくないとぐずることがある。さすがに保育園だと……と思い、なだめすかしてなんとか履かせて帰るが、これがもしNU VILLAGEにいるときなら、まあ裸足で歩いてみるのもいいじゃないかと言えるだろう。それで足の裏が痛かったら、「だから誰かが靴を発明したんだろうねえ」とニッコリ笑えそうだ。大人の余裕は子供にも伝わるはずし、子供の笑顔は大人にもうれしい。

90年代の後半から2000年代の前半にかけて、私はOVAでたっぷり遊ばせてもらった。そして2018年はNU VILLAGEでたっぷり3日間遊ばせてもらおうと思っている。きっと今年もムラでは「はじめまして」も「久しぶり!」も体験できるはずだ。どちらも受け入れる居心地の良さが、懐の深さが、NU VILLAGEにはある。そして今も昔もとことん遊べる場所があって、やっぱり1976年に生まれて良かったと、にんまりしながら思うのだ。

(文=松岡絵里)


松岡絵里(まつおかえり)プロフィール

ライター/編集者。1976年京都府生まれ。小学生時代をアジアで過ごし、大学時代はアジア旅に熱中。音楽誌編集者を経て、夫・吉田友和とともに世界一周の新婚旅行へ。607日間かけて45カ国をめぐる。そのときの様子を収めた「世界一周デートアジア・アフリカ編/魅惑のヨーロッパ・北中南米編」(幻冬舎文庫)や、世界各地の市場を紹介した「世界の市場」(国書刊行会刊)などの著書がある。

ライター/編集者の松岡絵里さんは、夫であり旅仲間でもある旅行作家の吉田友和さんとともに、NU VILLAGE 2018でトークを行う予定。これまでの旅のエピソードや、子連れ旅におすすめの「プチ移住」について語ります。

世界一周はもちろん、沖縄、京都にプチ移住した経験で得たものとは。旅していて良かったと思う瞬間、子連れ旅のなるほどテクニック、そしてトホホな話も飛び出すかも……!?


吉田友和(よしだともかず)プロフィール

1976年千葉県生まれ。初海外=世界一周をきっかけに旅に目覚める。その後、週末海外を繰り返していたら、いつの間にか旅行作家に。『サンデートラベラー!』『自分を探さない旅』『10日もあれば世界一周』『思い立ったが絶景』『東京発半日旅』など旅の著書多数。『ハノイ発夜行バス、南下してホーチミン』はTVドラマ化もされた。一家での体験をまとめた『沖縄プチ移住のススメ』のほか、近年は「子連れ旅」をテーマにした連載なども行っている。